博士号取得を目指す方へ

2026年度に定年退職のため,2024年度入学生が最終になります.

 様々な分野でのグローバル化が叫ばれて久しいですが,我が国における博士号取得を取り巻く環境には厳しいものがあります.諸外国においては博士号取得者が大幅に増加する傾向にある中で,我が国では2019年度以降はむしろ減少傾向にあるとの分析結果も報告されています.近年,世界全体の論文に占める我が国の割合が大幅に低下しているという事実とともに,かつて技術立国と言われた我が国の土台が揺らいでいることを暗示しているとも言えましょう.
 一方で,産業界を中心に”学び直し”というキーワードがクローズアップされています.最近では,日本製鉄が学び直しに3年休職制度を設け,博士号取得を後押しをするということが話題になりました.しかし,多くの人は,休職期間は無給という現役世代にとってはとても現実的とは思えない内容に唖然としたのではないでしょうか?今,声高に叫ばれている”学び直し”は,どちらかというとDXに対応する人材育成に名を借りた,中高年社員のリストラ促進策のような感も受けます.かつては,民間企業においても,研究者や技術者が社内の留学制度を利用し,国内外の大学でPhDを取得する制度がありました.このような人財育成制度を残している会社は,今では少数派となってしまっています.産業構造変革の名の下,重電機器メーカーがものづくりから情報産業へ軸足を移す中で,中長期的な視点での技術者育成が必要な分野を切り捨てる傾向が高まっていることも一因かと思われます.世の中の情勢を見れば,進歩の激しい情報関連技術に次々と人材を投入し,使い捨てにしていくような経営こそが,グローバルに発展する企業のロールモデルになっているのも事実です.しかしこれは,世界中から新しい人材が集まる国でこそ可能なモデルであって,我が国のような閉鎖的な環境では,必ずしもお手本になるとは考えられません.

 では,我が国の産業は将来,どのように変化していくのか?これまで屋台骨を支えている自動車産業は,世界的なEV化の流れの中でゲームチェンジの大波を受けることが余儀なくされると言われています.しかし,このような危機感,そして新興企業への過剰な期待感を煽っているのは投資家たちであり,昨今の電力供給事情を見るまでもなく,急速なEV化シフトは現実的ではないことは明らかです.再生可能エネルギーの拡大も然りです.
 持続的発展可能な社会,カーボンニュートラル社会を目指すことについては,誰もが賛同し,望むところだと思います.しかし,SDGsの名の下に,安直な電動化や脱炭素化は,むしろ真逆の結果をもたらす危険性も秘めています.重要なのは,感情論に流されず,合理的に,そして段階的に目標に向かっての技術変革を進めていくことだと思います.具体的には,まずは人類がその生活水準を維持・向上させるために必要な総エネルギー量を減らすことです.まだまだ,エネルギーの浪費,そして技術的な問題に起因する無駄がたくさん存在しています.これらを着実に抑制していくこと,すなわち”省エネ”こそが,もっとも重要かつ早急に取り組まれるべき政策と言えます.
 トライボロジーは,”省エネ”の深堀に無くてはならない技術です.今のことろ,省エネ機器および関連技術については,我が国は世界をリードする立場に留まっています.自国優先主義が広がりを見せる中,他国の戦略的な技術潮流操作に惑わされることなく,持っている強みをさらに本質的な部分で活かしていくことが出来るかどうか?本来はDX以前に強く問われるべき課題です.過去の半導体や液晶TVなどの轍を踏むことが無いことを祈るばかりです.

 以上を背景に,高度なトライボロジーの専門知識を持った人材の必要性は,今後ますます高くなるものと考えています.その際,博士号の有無は研究者,技術者にとっては大きな意味を持つことになります.海外の企業では,技術開発に係わる部署のマネージャーへの昇進にはPhDが必須とされており,グローバル化の中で避けては通れない”資格”ということが出来ます.
 当研究室では,過去10年間に多くの博士号取得者(博士課程4名,社会人博士課程7名)を出してきました.ただし,重要なことは,数ではなくその中身です.東京理科大学はその実力主義によって,”教育に厳しい大学”というイメージがありますが,博士号取得も同様です.大学によっては,査読筆頭論文数も問わず,公聴会も形ばかりのところもあるようです.しかし,本学,特に工学研究科機械工学専攻の場合には,まずは,筆頭論文数,語学能力判定,予備審査+3回の審査会+公聴会をクリアしなければなりません.もちろん,審査会では内容が厳しくチェックされます.そのため,単に博士号を”買う”ことを考えている人にはお奨めできません.博士号取得の過程での能力の涵養,そして世界に通用するPhDを取得したいと考えている方には,是非とも挑戦して戴きたいと思っております.

博士号取得者

博士課程
・渡部 誠也 大阪大学 助教
・川田 将平 関西大学 准教授
・大久保 光 横浜国立大学 助教
・岡部 貴雄 東京大学 助教
・佐藤 魁星 東京理科大学 助教

社会人博士課程
・中瀬 拓也 カヤバ
・徳田 祐樹 都立産技研
・田邊 幸子 セイコーインスツル
・加藤 慎治 カヤバ
・佐々木 辰也 三菱電機
・大下 賢一郎 日本パーカライジング
・小野寺 康 EMGL

在学中
・林 優美 住友重機械工業
・國井 拓人 Rtec Instruments Japan