トライボロジーとは?

トライボロジー(Tribology)とは,摩擦・摩耗・潤滑の科学を扱う学術領域です.

”Tribology” は,1966年,P.Jost氏が英国文部科学省に提出した政策提言書,通称”JOSTReport”においてはじめて登場した言葉です.
ギリシャ語で摩擦を意味する”Tribos”と学問を意味する”ology”を組み合わせた造語です.

トライボロジー概要

学際領域としてのトライボロジー

 ”Tribology”という言葉は,1969年にOECD用語集に「the science and technology of interactingsurfaces in relative motion and of relatedsubjects and practices(相対運動をする2物体間の相互作用を及ぼし合う表面,およびこれに関連する諸問題と実地応用に関する科学と技術)」と定義されています.また,1986年にはOxford英語辞書に,我が国でも1991年に広辞苑に新語として採択されています.
 現在,SDGsに向けた様々な取り組みが行われていますが,工学としてのトライボロジーには,省エネルギーや地球環境負荷低減への貢献に大きな期待が寄せられています.当研究室では,20年前より”サステイナブル・トライボロジー”を標榜し,基礎メカニズムの解明に係わる最先端の研究を推進するとともに,その成果を社会実装するための技術開発にも積極的に取り組んでいます.

‖研究室の紹介

   Laboratory Introduction

 当研究室では,トライボロジー現象の解明とその特性改善を目指して表面の物理特性計測と科学分析技術を駆使し,トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑)現象の解明に取り組むとともに,トライボロジー特性を改善するための機能性表面創製や新規潤滑剤の開発に取り組んでいます.具体的には,表面に微細構造を付与したり,新素材による表面修飾する技術について,ナノレベルでの現象解明をもとに研究開発を進めています.そのため,In-situ表面分析技術やナノ物性評価技術などの研究開発も国内外の研究者らと共同で研究開発を進めています.そのため,トライボロジーに関する評価装置や表面分析装置類については,世界的に見てもトップレベルの設備を整えています.

 トライボロジーは,学際領域の学問であるため,物理や化学などの基礎分野や材料分野の研究者らとの連携が必要になります.東京理科大ではトライボロジーセンターを設置し,分野横断的な研究体制を整えています.また,ウオーターフロンティアサイエンス&テクノロジーセンター(WFST)において,界面に拘束された分子構造および動的挙動解明に関する研究を学内外の研究者らと連携して取り組んでいます.
 
 産学連携活動では,TRAMI(自動車用動力伝達技術組合)やNEDOプロジェクトへの参画をはじめ,国内外の企業との共同研究や技術指導等を数多く実施しており,ここで得た産業界のニーズや新しい情報を研究にフィードバックすることにより,常に最先端の研究課題に取り組みつつ,その質の向上に努めています.

  最後に,大学の一番の目的は学生教育にあります.民間企業との共同研究や,海外の研究機関との人材交流や連携の最終目的は,これらの活動において得た成果や体験を,咀嚼して学生に伝え,また,身をもって体験してもらうことにあります.今後も,サイエンスとテクノロジーの学術的追求とこれを社会実装するための活動をバランスよく推進することにより,アカデミアならびに産業界への貢献を果たすとともに,人財育成に最も力を入れた活動を推進しています.

主な研究テーマ

トライボロジーに係わる基礎研究から応用技術まで,広い領域をカバーしています.

なお,卒研,修論のテーマは,学生の自主性を重視し,トライボロジー以外の研究も行っています.

トライボロジーの基礎

▶︎ 境界・混合・流体潤滑領域をカバーする摩擦係数予測式
▶︎ 摩擦界面のその場分光分析(ラマン分光)
▶AFMを用いた反応膜形成過程のその場観察
▶︎ FM-AFMを用いた表面水和構造の解析と超潤滑メカニズムの解明
▶︎ QCM-Dを用いた競争吸着メカニズムの解明
▶金属の疲労摩耗メカニズム
▶︎ イオン液体の潤滑メカニズム
▶植物油の潤滑メカニズム
▶ソフトマターの摩擦・摩耗メカニズムの解明
▶生体細胞表面の摩擦と摩耗
▶︎ 昆虫の関節における潤滑メカニズム

表面改質

▶︎ テクスチャ表面における油膜および潤滑油流れのその場観察
▶︎ テクスチャパターンによる摩擦異方性発現メカニズムと制御
▶︎ テクスチャ表面の摩擦特性を表現可能な新規トライボGPSパラメータの探索
▶︎ 3Dプリンタによる3次元微細構造表面テクスチャリングの開発
▶︎ 各種硬質被膜に対する添加剤の潤滑メカニズム
▶︎ DLCの潤滑メカニズムの解明

評価と解析

▶︎ 表面極近傍のナノ機械物性測定(硬さ,ヤング率,粘弾性)▶DLC膜の耐疲労摩耗特性評価法の開発
▶EV用高速歯車用潤滑剤の評価
▶コンタクトレンズの摩擦特性
▶毛髪の摩擦特性評価
▶皮膚の摩擦特性評価
▶︎摩擦・摩耗評価装置の開発
▶摩擦・摩耗試験方法の標準化
▶機械学習のための摩擦・摩耗データの取得と処理


学生へのメッセージ

 トライボロジーは分野融合的なインターディシプリンな学問です.機械工学の柱である4力学には飽き足らず,物理や化学など色々な学問に興味ある人,新しいことに挑戦したい人を歓迎します.

 研究したいと思う人へのサポートは惜しみません.当研究室では,学生の研究成果発表に重点を置き,国際会議の発表や国際誌への論文投稿を積極的に推奨しています.その結果,毎年,数多くの優秀講演賞や優秀ポスター賞などを受賞しています.修士課程を終えるまでに,査読付筆頭論文2本以上や学会賞等の複数授賞は,本研究室においては珍しいことではありません.
 
 研究能力は,座学での成績とは異なります.成績上位者が高い研究能力を併せ持つことが多いことはこれまでの経験からも言えますが,成績下位者ながら非常に良い研究成果を出した学生も多数います.一番重要なのは,せっかく,工学部に進学したのですから,産業界との連携した卒業研究・修士論文研究を実施する中で,将来の糧になる様々な経験を積むことだと思います.
 
 研究に高いモチベーションを持つ人を,研究室として大いに歓迎します.

博士号取得を目指す人へ

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